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毎日新聞 2010年9月22日

 

 ◇伝統文化を100年先までつなぐ意義

   −−開府400年に合わせ、名古屋市内に残る山車を記録するドキュメンタリーを製作中だ。

   ◆数年前、私の地元、東区で5台の山車が建中寺(尾張徳川家の菩提(ぼだい)寺)の境内に勢ぞろい

    したことがありました。近代的なものが何もない空間で壮麗な山車が夕日に映えて並んでいる光景を

    見た時、これは未来に残しておくべき伝統文化だと感じた。製作を思い立ったきっかけです。

   −−今年1月から撮影を始めた。

   ◆これまで山車の組み立てや飾り付け、おはやしを練習する子どもたち、からくり人形師の技、本番で

    の引き回しなどを押さえてきました。10月の名古屋まつりでは400年記念事業の一環として市内の

    13台が集結する。撮影のクライマックスになります。

    保存会のメンバーは開府300年の時、つまり自分のおじいさんの代に引き回された山車の写真や

    絵はがきを宝物のように持っている。今回、撮っているハイビジョン映像が100年後も残る貴重な

    記録になればと思うんです。

   −−「山車文化」の意義は何でしょう。  

   ◆子どもを見ても親の顔とつながらないご時世ですが、山車があることによって赤ちゃんから、おじい

    ちゃんまで参加したり、見に来るでしょ。世代を超えた交流が生まれる。地域コミュニティーの核に

    なっているんですねもう一つ大切なことは、山車を動かすこと自体に金も労力もかかる中で、皆が

    一丸となって祭りを作り上げ、喜びを分かち合えることです。今、科学や技術が進歩してどんどん

    効率化され、個の時代へ向かっている。それが格差とか、さまざまな歪(ひず)みを生んでいるのでは

    ないでしょうか。集団でたいへんな思いをしながら達成感を味わえる環境って大事にしていくべきだと

    思いますね。

    −−一方で、その「山車文化」の継承が今、課題になっている。

    ◆一つは少子高齢化に伴う後継者難の問題に直面しています。加えて、江戸時代は日々の暮らしと

     密着した行事だった山車や祭りが、今は特別化されている現実もあります。つまり日常的にいろんな

     楽しみがあふれている中で、山車を引くことにどれだけ喜びと誇りを感じられるかです。

     この100年で時代や環境が大きく変わったように、この先100年で伝統文化に対する価値観も

     変わってしまうのではという不安感はありますね。個人でも地域レベルでも、よほど山車を守って

     いく強い気持ちがないと継承していくのは難しいのでは……。

     そんな中、市内のいろんな地区で山車を見直そうという機運も出てきています。例えば大須(中区)

    では10月、約15年ぶりに復活デビューします。400年を契機に、名古屋の人が先人たちから受け

     継いできたものを次世代へつなぐ意義を再認識し始めたのではないでしょうか。名古屋は戦災で

     貴重な文化遺産をたくさん焼失してしまった経緯もあります。それだけに余計、残った山車を再興

     させようという動きに期待したいですね。<聞き手・松本宣良>

      ※「なごやを語る」は今回で終了します。

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    ■人物略歴

     ◇もり・ぜろ

     名古屋市生まれ。昨年、円頓寺商店街(西区)などを舞台にした冒険活劇「歪屋(ひずみや)」を

     製作した。

     問い合わせは名古屋活動写真電話052・581・1201。45歳。

      毎日新聞 2010922日 中部朝刊